
十一月の夜、キッチンの窓から冷たい空気が忍び込んでくるのを感じながら、私はいつものようにお湯を沸かしていた。今日一日を振り返る時間。仕事中に感じたこと、ふと心に引っかかったこと、そんな断片をノートに書き留める習慣が、いつの間にか私の日常に根付いていた。
「感じたことメモ」と勝手に名付けたそのノートには、大したことは書いていない。朝の電車で見た景色のこと、同僚がくれたアメの味、午後三時に襲ってきた眠気のこと。でもそれを書き出すだけで、なぜか心が軽くなる。頭の中でぐるぐる回っていた思考が、文字になった瞬間に落ち着きを取り戻すのだ。
やかんから湯気が立ち上り、キッチン全体にほんのり温かさが広がる。私は棚からマグカップを取り出し、お気に入りのハーブティーを注いだ。ラベンダーとカモミールがブレンドされた「ムーンライトガーデン」という名前のそれは、香りだけで肩の力が抜けていく。
カップを両手で包み込むと、じんわりとした温もりが手のひらから腕へ、そして胸のあたりまで伝わってくる。この感覚が好きだ。体の芯から温まるというのは、こういうことなのかもしれない。子どもの頃、風邪をひいたときに母が作ってくれた生姜湯を思い出す。あの頃は「辛くて苦手」と顔をしかめていたけれど、今なら分かる。あれは体を温めるための、母なりの優しさだったのだと。
ノートを開き、今日の「自分への問い合わせ」を書く。これは誰かに見せるものではない。自分自身に問いかける時間だ。「今日、体は喜んでいただろうか」「明日の自分が笑顔でいるために、今夜できることは何だろう」そんな素朴な問いを並べていく。
実は先週、この時間を持たずに寝てしまった日があった。翌朝、なんとなく体が重く、気持ちもどこかモヤモヤしていた。自律神経が乱れているのかもしれないと思った。忙しさにかまけて、自分の体と対話する時間を失っていたのだ。
ティーカップを口元に運ぶと、温かい蒸気が鼻をくすぐる。一口飲んで、ゆっくりと息を吐く。この瞬間、頭の中のノイズが静かになっていく。ストレスというのは、気づかないうちに積み重なっているものだ。それを手放す時間を持つことが、どれほど大切か。
最後に「ゆる予定づくり」をする。明日やりたいこと、やらなくてもいいこと、できたら嬉しいことを、ゆるく書き出す。ちなみに今夜は「朝のストレッチ」と書こうとして、うっかり「朝のストッキング」と書いてしまい、一人で笑ってしまった。疲れているのかもしれない。
このノートを閉じる頃には、体も心も少しだけ軽くなっている。良質な睡眠への準備が整ったような気がする。温かい飲み物、静かな時間、自分と向き合う数分間。それだけで、明日への活力が湧いてくる。
キッチンの明かりを消し、寝室へ向かう。今夜もきっと、深く穏やかな眠りにつけるだろう。体を温め、心を整える。そんな小さな習慣が、いつまでも若々しく健やかでいるための秘訣なのかもしれない。






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