
冬の夜、部屋の照明を少し落として机に向かうと、不思議と心が静まっていく。窓の外では風が木々を揺らしているけれど、部屋の中は温かい。湯気の立つルイボスティーを淹れて、ゆっくりと息を整える。私がこの時間を大切にするようになったのは、去年の春、朝起きるたびに疲れが残っていることに気づいたのがきっかけだった。
「感じたことメモ」という習慣を始めたのは、友人に勧められてのことだ。一日の終わりに、今日感じたことをただ書く。嬉しかったこと、ちょっとモヤモヤしたこと、美味しかったランチのこと。何でもいい。最初は「これで何が変わるの?」と半信半疑だったけれど、書き続けるうちに、自分の感情が整理されていくのを感じた。頭の中でぐるぐる回っていた思考が、紙の上に降りてくる。それだけで、肩の力がふっと抜ける。
次に始めたのが「自分への問い合わせ」だ。これは少し変わった習慣かもしれない。ノートに「今、私は何を必要としている?」と書いて、自分に問いかける。答えはすぐには出ないこともある。でも、問いを立てることで、自分の内側に意識が向く。ある晩、ペンを持ったまま考え込んでいたら、いつの間にかカップに口をつけようとして空気を飲んでしまった。ティーカップはまだ机の向こう側にあったのに。そんな小さな間抜けな瞬間も、今となっては愛おしい。
そして三つ目が「ゆる予定づくり」。明日やりたいことを、ふんわりと三つくらい書いておく。「朝、白湯を飲む」「昼休みに外を歩く」「夜は早めにお風呂に入る」。どれも小さなこと。でも、こうして書いておくだけで、翌日の自分が少し優しくなる気がする。予定に縛られるのではなく、自分を労わる道しるべのようなもの。
この三つの習慣を続けるうちに、不思議なことに気づいた。夜、きちんと自分と向き合う時間を持つと、眠りが深くなっていく。以前は布団に入ってもあれこれ考えて、なかなか寝付けなかった。でも今は、ノートに書き出すことで思考が落ち着き、身体も自然とリラックスしていく。朝起きたときの感覚が、明らかに違う。身体が軽い。心も穏やか。
自律神経という言葉をよく耳にするけれど、それは目に見えない身体のリズムのようなものだ。忙しい日々の中で、そのリズムは簡単に乱れてしまう。でも、夜のこの静かな時間が、乱れたリズムを整えてくれる。ノートを開き、ペンを走らせ、温かい飲み物を口に含む。そのひとつひとつが、身体に「もう大丈夫だよ」と語りかけてくれるようだった。
子どもの頃、母が寝る前に必ず日記を書いていたのを思い出す。当時は「何を書いてるんだろう」と不思議だったけれど、今ならわかる。あれは、母なりの心の整え方だったのだ。そして今、私も同じことをしている。形は違っても、根っこは同じ。自分を大切にするための、小さな儀式。
ストレスは目に見えないけれど、確実に身体に積もっていく。それを溶かすのは、特別なことじゃない。ただ、自分の声に耳を傾けること。感じたことを認めること。明日の自分に優しい言葉をかけること。そうして過ごす夜が、質の良い眠りを連れてきてくれる。そして良い眠りは、朝の私を新しくしてくれる。
夜のノート、温かい飲み物、そして静かな時間。この三つが揃うとき、私の一日は穏やかに閉じていく。そして翌朝、また新しい自分に出会える。それは、何にも代えがたい贈り物だと思う。






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