
七月の夕暮れ、空がまだうっすらオレンジに染まっている時間帯に、わたしはお風呂の蛇口をひねる。湯気がふわりと立ちのぼり、窓ガラスがすこしずつ白く曇っていく。その光景を見るたびに、「ああ、今日もちゃんと終わった」という感覚が胸にひろがる。
最近、「入浴時間」をめぐる話題があちこちで盛り上がっている。
東京ガス都市生活研究所が2026年に発表したレポートによれば、「入浴が好き」という感覚は全年代に共通している一方で、30代以上ではシャワー入浴派が増加しているという。
忙しい日常の中で、湯船に浸かる時間を省いてしまう人が増えているのだ。でも、それはちょっともったいないかもしれない。
自律神経は交感神経と副交感神経に分かれており、交感神経が高いままでは人は眠ることができない。反対に、副交感神経を高めてあげれば、自然と眠りにつくことができる。
そのスイッチを切り替えるのに、湯船はとても理にかなった手段なのだ。
自律神経を整えリラックス効果を高めるには、38〜40度の「ぬるめ」のお湯が最適で、ぬるめのお湯にゆっくり浸かることで副交感神経が優位になり、心身が穏やかな状態へと導かれる。
熱すぎるお湯は逆効果。これ、意外と知らない人が多い。
タイミングも大切だ。
入浴は就寝の1.5〜2時間前に行うのが最適とされており、深部体温がゆっくりと低下することで自然な眠気が促進される。
夜10時に眠りたいなら、8時ごろに湯船に入るのが理想的ということになる。
わたしが入浴時間を意識し始めたのは、去年の秋ごろ。それまでは「シャワーで十分でしょ」と思っていたのだが、ある夜、うっかりバスソルトを多めに入れすぎて浴槽がほんのり桃色に染まってしまい、なんとなく出るタイミングを逃してそのままぼんやり15分浸かっていた。そしたら、久しぶりにぐっすり眠れたのだ。あの夜の「失敗」が、習慣を変えてくれた。
今では、入浴のお供に「ノーメイクデー」を組み合わせるのがお気に入りのルーティン。メイクを落として、素肌のまま湯気の中に座っていると、肌がじんわりと息を吸っているような感覚がある。蒸気が毛穴を開いてくれるのか、翌朝の肌がいつもより柔らかい。鏡に映るすっぴんの自分を、悪くないな、と思える夜が増えた。
浴室にひとつ、ぬくもりアイテムを置くのもおすすめだ。わたしが使っているのは、北欧インテリアブランド「ヴィルモラ」の小さな木製トレイ。その上にアロマキャンドルをひとつ灯すだけで、浴室がまるで違う空間になる。炎のゆらぎと、ラベンダーのやわらかな香りが、頭の中の雑音を少しずつ静めてくれる。
「適切な条件のお風呂に入るだけで、交感神経から副交感神経への切り替えが行われ、自律神経のバランスを整えることができる」
という専門家の言葉を読んだとき、長年シャワーで済ませていた自分を少し反省した。
良質な睡眠は、翌朝の顔色にも、肌のつやにも、気持ちの余裕にも、じわじわと影響してくる。ストレス解消のためにも、若々しさを保つためにも、湯船に浸かる15分は決して無駄な時間ではない。むしろ、一日の中でいちばん自分に投資できる時間かもしれない。今夜、少しだけ早めにお風呂の蛇口をひねってみてほしい。






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