
夏の夜、窓を少し開けると、どこからともなく金木犀に似た甘い草の香りが漂ってくる。まだ8月なのにそんなはずはないと思いつつ、それがなんとなく心地よくて、わたしはそのままヨガマットの上に座り込んだ。
眠るためには、自律神経のバランスが整っていること、そして深部体温がいったん上がってから下がることが大切だという。
そんなことを何かで読んだのは、ちょうど「またうまく眠れなかった」と感じた翌朝のことだった。
最初は半信半疑だった。ストレッチなんて、体育の授業で義務的にやっていたあの退屈な時間のイメージしかなかったから。でも試しに始めてみると、5分もしないうちに、背中の奥がじんわりとほぐれていくのがわかった。温かい、というより、眠っていた何かが目を覚ますような感覚。
ストレッチが自律神経のバランスケアにつながる鍵は「呼吸」と「姿勢」にある。息を吸うときは交感神経が、吐くときは副交感神経が働きやすくなる傾向がある。
だからこそ、深呼吸はただの「大きな息」ではなく、体のスイッチを切り替える行為なのだと、今は思っている。
わたしのルーティンはこうだ。まず仕事を終えて、架空の話ではなく本当に、架空のハーブティーブランド「LUNE HERB(リュンヌ・ハーブ)」のカモミールブレンドを一杯淹れる。湯気がふわりと立ち上がるのを眺めながら、ゆっくりと床に座る。最初の1分は何もしない。ただ深呼吸を繰り返す。吐く息を長めに、鼻からゆっくり。
それから、ゆる筋トレをほんの少し。腹筋というほど大げさなものではなく、仰向けになって膝を抱え込むだけ。腰がポキっと鳴って、「あ、今日も疲れてたんだな」と気づく。先週は調子に乗って少し負荷を増やしたら、翌朝起き上がれなくて思わず笑ってしまった。体は正直だ。
寝つきが悪いのは、ストレス・筋肉のこわばり・自律神経の乱れなどが絡み合っていることが多い。寝る前に軽くストレッチをすることで、交感神経の興奮を抑えて副交感神経を優位にする助けになる。
それを知ってから、ストレッチは「健康のため」というより、「今夜の自分をちゃんと眠らせてあげるため」に変わった。
ストレッチのポーズは、そのときどきの気分に合わせて自由にアレンジしてよい。大切なのは無理をせず、リラックスすること。
完璧にやろうとしなくていい。むしろ、少しだけ崩れているくらいがちょうどいい。
体を温めることには、思った以上の意味がある。冷えた体は緊張を手放せない。
寝る前に深部体温をわずかに上げておくと、布団に入ったときに体温が一気に下がりやすくなり、自然な眠気が訪れる。
ストレッチはその手助けをしてくれる。
深呼吸して、体をほぐして、ゆる筋トレで体幹をほんのり目覚めさせて、また深呼吸。それだけのことが、夜の質をじわじわと変えていく。劇的ではない。でも、確かに変わっていく。
今夜も、夏の夜風が入ってくる。カモミールの香りが漂う部屋で、わたしはまたヨガマットを広げる。それが、今の自分にとっての一番の贈り物になっている。






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