
八月の夕方、窓の外がまだ橙色に染まっているのに、なぜかすでに疲れている——そんな夜が続いていた。冷房の効いた部屋でぼんやりスマホを眺めながら、ふと気づく。今日、自分が何を感じたか、まるで覚えていない、と。
そのとき始めたのが「感じたことメモ」だった。特別なアプリも手帳も要らない。コンビニで買った百円のメモ帳に、その日感じたことをひとつだけ書く。「なんか肩が重かった」「冷たいものを飲みすぎた気がする」「夕方になると手足が冷える」。たったそれだけ。でも、書き続けるうちに、見えてきたものがあった。
自分の身体は、ずっと何かを訴えていたのだ。
冷えは、思っているよりずっと深いところに潜んでいる。夏だからと油断していたけれど、冷房の風が直接あたる背中、素足のフローリング、アイスコーヒーを一日に三杯。そのひとつひとつが、じわじわと体の芯から熱を奪っていた。子どもの頃、祖母がよく「夏こそ腹を冷やすな」と言いながら腹巻きを押しつけてきたのを、ずっと大げさだと思っていた。今になってようやく、あの言葉の意味がわかる気がする。
身体を温めることは、自律神経の調整にも深くつながっている。体温が安定すると、交感神経と副交感神経のバランスが整いやすくなり、夜になると自然に眠気が訪れるようになる。ところが冷えた状態では、身体が緊張を手放せず、布団に入っても目が冴えたまま——という悪循環が起きやすい。
「感じたことメモ」を続けていくと、自然と「自分への問い合わせ」が始まる。今日の私は、ちゃんと温かいものを食べたか。ゆっくり湯船につかったか。日が落ちてから、スマホを置けたか。誰かに問われるのではなく、自分自身に静かに問いかける時間。それが、ストレス解消の入口になっていた。
ちなみに、最初にメモを書こうとした夜、ペンのインクが出なくてしばらく紙をぐりぐりしていた。ようやく書けたひと言は「ペンが出なかった」。……なんとも締まらないスタートだったけれど、それでいいのだと今は思う。
眠りの質を変えたのは、「ゆる予定づくり」だった。寝る一時間前に「今夜のゆる予定」をメモに書く。湯船に十分つかる、ハーブティーを一杯飲む、照明を少し落とす。難しいことは何もない。でも、それを「予定」として書くことで、なんとなくこなしていた夜のルーティンが、自分を整えるための時間に変わった。
愛用しているのは「ルナ・ボタニカ」というブランドのカモミールとラベンダーをブレンドしたハーブティー。湯気がふわっと立ち上るとき、ほのかに甘い草の香りが鼻をくすぐって、肩の力がすうっと抜けていく感覚がある。温かいカップを両手で包むと、指先から熱がじんわりと広がって、それだけで少し眠れる気がしてくる。
良質な睡眠は、美しさと若々しさの土台だと思う。肌が整い、気持ちが落ち着き、翌朝の顔がほんの少し違う。それは特別なケアの結果ではなく、夜の小さな選択の積み重ねだ。
「感じたことメモ」は、大げさな自己分析でも、完璧なライフログでもない。ただ、今日の自分に「どうだった?」と聞いてあげる、それだけのこと。その問いかけが、眠れる夜と、温かい朝をつくっていく。






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