
夜の9時を少し過ぎたころ、浴室の扉を開けると、ほわりと白い湯気が顔を包んだ。ラベンダーとほんのりカモミールが混じったような香り。今日は何もしない日にしようと決めた日だった。ノーメイクデー。鏡に映る自分の素顔を、久しぶりにちゃんと見た気がした。
入浴時間というものを、最近あらためて考えている。
ゆっくりとした入浴によって皮膚表面温度が上昇し、疲労物質や老廃物が汗と共に体外へ排出されやすくなる。これは短時間のシャワーでは難しく、睡眠の質の向上も期待できる。
そんな話を読んでから、シャワーで済ませることへの罪悪感が少し増した。いや、罪悪感というより、「もったいない」という感覚に近いかもしれない。
子どもの頃、母が毎晩お風呂に長く入っていた。「なんでそんなに長いの?」と聞くと、「考え事をする時間なのよ」と言っていた。当時はよくわからなかったけれど、今ならわかる。あれは自分を取り戻す時間だったのだ。
自律神経とは、交感神経と副交感神経に分かれており、交感神経は身体を動かすとき、副交感神経は身体を休めるときに働き、互いにバランスをとりつつ身体の調整をする神経だ。
忙しい毎日の中で、私たちはずっと交感神経を使いっぱなしにしている。スマートフォンの通知音、締め切り、誰かへの気遣い。それらをいったん手放す場所として、お風呂は機能する。
お湯に浸かることで体がゆるみ、副交感神経が働きやすい状態に切り替わる。つまり、お風呂は「緊張モードから休息モードへ」とスイッチを入れる場所でもある。
おすすめの湯温は、
38〜40度のぬるめの温度。これで副交感神経が優位になり、リラックスした状態が得られる。
熱すぎるお湯は、実は逆効果になることもある。そして入浴時間は、
15〜20分程度が目安。体が温まり血行が良くなるまでには10〜15分ほどかかる。
ぬくもりアイテムも、この時間をより豊かにしてくれる。わたしが最近気に入っているのは、「ソワレブラン」というブランドのバスソルトだ。細かい粒子がお湯に溶けるとき、ほんのりミルクのような白さが広がって、なんだか贅沢な気持ちになれる。ちなみに先週、うっかり蓋を開けたまま落としてしまって、浴室の床が一面塩だらけになった。掃除しながら「これはこれで足裏ケアになってるかも」と思ったのは、さすがに言い訳が過ぎる。
入浴のタイミングも重要で、就寝1〜2時間前に入浴するのがもっとも効果的とされている。入浴後にしっかりと汗をかくことも快眠のための大きなポイントで、汗が蒸発するときの気化熱が深部体温のスピーディな低下を促し、脳のクールダウンに役立つ。
良質な睡眠は、美しさとも深く結びついている。肌の再生は眠っている間に行われるし、翌朝の顔の張り感も、夜の過ごし方で変わってくる。ノーメイクデーの翌朝、鏡を見てみると、昨日より少しだけ肌が落ち着いている気がした。気のせいかもしれないけれど、それでいいと思っている。
今夜もお湯を張ろう。スマートフォンはいったん遠くに置いて、ただ温かさに身を委ねる。入浴時間は、自分への小さな約束だ。






この記事へのコメントはありません。