
夏の終わりの夜、窓を少し開けると生ぬるい風がカーテンをゆらした。エアコンを切ったばかりの部屋はまだ熱を帯びていて、床に座るだけで足の裏がじんわりと温かい。そんな8月の夜に、私はヨガマットを広げることにした。
きっかけはたわいもないことだった。数週間前、友人が「最近ゆる筋トレとストレッチを組み合わせてるんだよね」と言いながら、コーヒーカップをそっと私の前に置いた。その仕草がなぜか妙に印象に残って、その夜から私も試してみることにしたのだ。
ストレッチを始めた最初の夜、自分の体の硬さに思わず笑ってしまった。前屈しようとしたら膝がほとんど曲がらず、「これ本当に人間の体か?」と心の中でひとりツッコミを入れながら、それでも少しずつ脚を伸ばした。子どもの頃は校庭の隅で柔軟体操を難なくこなしていたのに、あの頃の自分はどこへ行ったのだろう。
ストレッチが自律神経のバランスに働きかける鍵は「呼吸」と「姿勢」にある。
それを知ってから、動作のひとつひとつを丁寧に意識するようになった。体を伸ばしながらゆっくりと深呼吸を繰り返す。吸って、吐いて。吐くときに少し長く息を流すと、肩のあたりがふっと緩む感覚がある。それだけで、一日の疲れが少しずつほどけていく気がした。
就寝前の静的ストレッチは副交感神経への切り替えを助け、筋肉を伸ばしながらゆっくりと深呼吸することで体がリラックスモードに入る。
だから私は今、夜8時という時間をひとつの儀式として決めている。スマートフォンを伏せて、「ルミナス・ボタニカ」のアロマキャンドルに火を入れる。ラベンダーとヒノキが混ざったような香りが部屋に広がると、それだけで呼吸が自然と深くなる。
ゆる筋トレも少しずつ取り入れた。スクワットを10回、プランクを20秒。負荷は軽い。でも、それでいい。
軽めの負荷でゆっくり丁寧に行う筋力トレーニングは、筋肉のポンプ作用で血流を改善し、トレーニング後のリラクゼーション反応を促す。
体が温まると、手先や足先まで血がめぐる感覚がじわじわと広がって、冷えていた指先がほんのり赤みを帯びる。
自律神経をリラックスさせると同時に、少し深部体温を上げることで、布団に入ったとき一気に体温が下がりやすくなり、眠気が自然に訪れる。
体を温めることが、実は良質な睡眠への近道だったとは。以前の私は、眠れない夜にスマートフォンを眺めては余計に目が冴えていた。それが今は、ストレッチと深呼吸を終えた頃には、まぶたが自然と重くなっている。
ストレッチには、幸せホルモンと呼ばれる脳内物質セロトニンの分泌を促す働きがあり、筋肉の緊張をほぐすことで血流が良くなり、疲労物質の排出も促される。
毎晩続けるうちに、朝の目覚めが少しずつ変わってきた。以前は目覚ましを何度も止めていたのに、今は鳥の声で自然に目が開く朝がある。たったそれだけのことが、なんだかとてもうれしい。
健康で美しくあることは、特別なことではないのかもしれない。夜の8時、ヨガマットの上で深呼吸をひとつ。それだけで、体は正直に応えてくれる。






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