
十月の朝は、空気がすこしだけ変わる。窓を開けた瞬間、ひんやりとした風が首筋をかすめて、「あ、秋だ」と体が先に気づく。頭より先に、皮膚が季節を受け取る感じ。そういう一瞬を、最近わたしは「感じたことメモ」に書くようにしている。
「感じたことメモ」というのは、大げさなものではない。手のひらサイズのノートに、その日ふと感じたこと——冷たい空気の匂い、お茶を飲んだときの温かさが胃のあたりまで伝わってくる感覚、夕暮れの光が部屋の壁をオレンジに染めた数分間——そういうものをぽつぽつと書き留めるだけだ。始めたのは、ある夜、布団の中で「今日、何か感じたっけ?」と自問したことがきっかけだった。自分への問い合わせ、とでも言えばいいだろうか。日々の感覚をちゃんと受け取れているか、自分自身に確認する行為。
自律神経研究の専門家によれば、日記を書くことで自律神経の切り替えがスムーズになり、日中のイライラモードがリセットされてぐっすり眠れるようになるという。
それを知ったとき、「そういうことか」と腑に落ちた。書くことは、ただの記録じゃない。自分の内側を整理して、神経のスイッチを「休む側」へそっと倒す行為なのだと。
ただ、正直に言うと、最初は三日坊主だった。ノートを買ったはいいものの、ペンのキャップを閉め忘れてインクが乾き、翌朝「あ、やってしまった」と苦笑いした夜もある——それもそれで、メモに残しておけばよかったかもしれないけれど。
感じたことを書くようになってから、もうひとつ変わったことがある。「ゆる予定づくり」だ。翌日の予定を、きっちりスケジューリングするのではなく、「午前中はゆっくりお茶を飲む時間をつくる」「夜は早めにお風呂に入る」くらいのゆるさで書き添えるようにした。
これは診断でも管理でもなく、今夜どこから手をつけるかを決めるための、入口の目印のようなもの。
そのくらいの温度感が、長続きする秘訣だと気づいた。
体を温めることも、このルーティンの一部になっている。わたしが愛用しているのは「ノルディカ・ハーブ」という架空のブランドのハーブティー——ではなく、実際にはドラッグストアで買った生姜入りのルイボスティー。それでも、湯気が顔にかかる瞬間、目を細めたくなるほど気持ちがほぐれる。冷えた手でカップを包むと、じんわりと温度が伝わってくる。その感触が、「今日も終わりに近づいている」という合図になる。
自律神経は、交感神経と副交感神経の切り替えがスムーズに行われないと、寝つきが悪くなることが医学的にも指摘されている。腹式呼吸や規則正しい生活リズム、就寝前のブルーライト制限が、そのバランスを整える助けになるという。
難しく聞こえるかもしれないけれど、要するに「夜は体を温めて、頭を静かにする」ということ。メモを書いて、お茶を飲んで、スマホを遠ざける。それだけで、眠りの質はじわりと変わってくる。
就寝前の15分間は「脳のゴールデンタイム」とも呼ばれ、記憶しやすい時間帯でもある。嬉しかったことや楽しかったことをしっかりと記憶することが、翌朝の自分への贈り物になる。
感じたことメモは、その時間を豊かにするための、ほんの小さな道具だ。
若々しくいたい、健やかでいたい——そう思うとき、つい食事や運動に目が向きがちだ。でも、夜の静けさの中で自分への問い合わせをして、感じたことを書き留めて、ゆる予定づくりで翌日を迎える準備をする。その積み重ねが、実は体の芯から整えていく時間なのかもしれない。十月の夜風が、そっとそれを教えてくれた気がした。






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