
夏の夜、窓の外からひぐらしの声が遠く聞こえる午後9時すぎ。洗面台の鏡に映る自分の顔を見て、ふと気づく。今日はノーメイクデー、すっぴんのままで一日を過ごした日だった。肌がいつもより呼吸しているような、そんな感覚がある。そしてこの夜、いつもよりていねいに入浴時間を過ごしてみようと思い立った。
毎日の疲れを癒すはずのお風呂が、実は自律神経を整える鍵になるとしたら、もっと入浴時間を大切にしたいと思わないだろうか。
そう感じながら、浴槽にお湯を張る。ゆっくりとお湯が満ちていく音が、洗面所に静かに広がっていく。
湯気が立ちのぼる浴室に足を踏み入れると、ほのかにラベンダーの香りが漂う。今日は「ユキノハナバス」という小さなブランドのバスソルトを入れてみた。地元の薬草をブレンドしたという、少し珍しいアイテムだ。ぬくもりアイテムとしてSNSで話題になっていたのを思い出して、先週ようやく注文したものだった。袋を開けたとき、思いのほか量が多くてびっくりして、計量スプーンを持ちながら「これ、何杯入れるんだっけ」と説明書を読み直したのは、ここだけの話。
38℃程度のぬるめの湯に入ると、副交感神経が刺激され、オフモードになりやすいとされている。
だから今夜はあえてぬるめに設定した。肩まで静かに沈むと、体の芯からじんわりと温かさが広がっていく。指先まで、ゆっくりと。
自律神経には、体を活発にする交感神経と、体を休める副交感神経の2種類があり、夜になると副交感神経が優位になりリラックスするのが正常なリズムだ。
けれど現代の暮らしの中では、そのリズムが知らぬ間に乱れていることが多い。スマホの通知、仕事のプレッシャー、人間関係のさざ波。そういったものが積み重なって、夜になっても体が「休め」という信号を受け取れなくなっていく。
ぬるめのお湯にゆっくり浸かることで、副交感神経が優位になり、緊張していた筋肉がほぐれて血流も改善する。
湯船の中で目を閉じると、肩の力がすうっと抜けていくのがわかる。子どもの頃、母親が毎晩お風呂に呼んでくれていたことを、ふと思い出す。あの頃は湯船の縁に顎を乗せて、タイルの模様をぼんやり眺めていた。何も考えない時間が、あんなにも自然にあった。
30〜50代の男性、そして40〜60代の女性の4人に1人が慢性的な不眠状態にあることがわかっている。
睡眠の質は、健康と美しさの土台だ。どんなスキンケアも、どんな栄養も、眠れていなければその恩恵は半減してしまう。入浴時間を意識することは、そのまま睡眠の質を守ることにつながっている。
お湯から上がり、ふわりとしたタオルで体を包む。肌がほてっていて、じんわりと温かい。ノーメイクデーの夜に、ぬくもりアイテムに助けられて、自律神経がゆっくりと整っていく感覚。それはとても静かで、でも確かな変化だった。
今夜の入浴時間は、自分へのいちばん小さくて、いちばん大切なプレゼントになった。






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