夜のノートが教えてくれた、身体と心の小さな対話

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春先の夜、まだ少しひんやりとした空気が窓の隙間から忍び込んでくる時間帯に、私は一冊のノートを開く習慣を始めた。きっかけは些細なこと。いつものように仕事を終えて帰宅し、ソファに座った瞬間、身体の芯が冷え切っていることに気づいたのだ。温かい飲み物を手にしても、なぜかその温もりが身体に届かない。そんな日が続いていた。

友人が勧めてくれたのは、「感じたことメモ」という名の、ごく簡単な記録だった。難しいことは何もない。その日に感じた身体の変化や、心のざわつき、ふとした気づきを、数行でいいから書き留めるだけ。最初は正直、面倒だと思った。けれど書き始めてみると、意外にも自分が自分の身体に無頓着だったことに驚いた。「今日は肩が重かった」「午後から手足が冷えていた」「なぜか眠れなかった」。そんな些細な記録が、次第に一つのパターンを浮かび上がらせていく。

ある晩、私は自分への問い合わせを試みた。ノートの真ん中に一本線を引き、左側に「今の自分の状態」、右側に「どうしたいか」を書き出してみる。すると不思議なことに、自分でも気づいていなかった答えが見えてきた。夜遅くまでスマートフォンを見ていること、入浴をシャワーで済ませていること、週末も予定を詰め込みすぎていること。どれも些細なことだけれど、積み重なると身体は悲鳴を上げる。

そこで始めたのが「ゆる予定づくり」だった。毎週日曜の夜、翌週の予定を眺めながら、「何もしない時間」をあえて書き込む。たとえば水曜の夜は「19時以降はゆっくり入浴」、金曜の夜は「22時には布団に入る」といった具合に。友人は笑いながら「予定に余白を書き込むなんて変わってるね」と言ったけれど、この余白こそが私には必要だった。

ちなみに、このノートを書くときに愛用しているのが「ルナ・ウォームティー」という名の、カモミールとジンジャーをブレンドしたハーブティーだ。架空のブランド名かもしれないけれど、私にとっては夜の儀式に欠かせない相棒になっている。カップを両手で包むと、じんわりと手のひらに熱が伝わり、それが腕を通って胸のあたりまで届くような感覚がある。この温もりを感じながらノートに向かうと、不思議と心も静まっていく。

身体を温めることの大切さを、私は子どもの頃から何度も聞いてきた。祖母が冬になると「冷えは万病のもと」と口癖のように言っていたことを思い出す。けれど当時の私には、その言葉の重みが理解できなかった。大人になって初めて、身体が冷えると眠りが浅くなり、疲れが取れず、気持ちまで沈んでいくことを実感した。

ある夜、ノートを書いている最中にうっかりペンを落としてしまい、拾おうとしたら猫がすかさずそれを転がし始めた。真剣にメモを取ろうとしている横で、無邪気に遊ぶ猫の姿に思わず笑ってしまった。そんな小さな出来事さえも、心の緊張をほどいてくれる。

自律神経という言葉を意識するようになったのも、この習慣を始めてからだ。日中は交感神経が優位になり、夜は副交感神経に切り替わる。そのスイッチがうまく働かないと、身体は休めない。だからこそ、夜の過ごし方がこれほど重要なのだと気づいた。温かい飲み物、ゆったりとした入浴、静かな時間。それらすべてが、身体に「もう休んでいいよ」と伝える合図になる。

ストレスを完全に消し去ることは難しい。けれど、それを少しでも和らげる方法を自分で見つけることはできる。私にとってそれが、夜のノートと温かい一杯だった。睡眠の質が変わると、朝の目覚めが変わる。朝が変わると、一日の過ごし方が変わる。そんな小さな連鎖が、やがて心と身体全体を支えてくれるようになった。

今夜もまた、ノートを開く。ペン先が紙に触れる音、カップから立ち上る湯気の香り、窓の外を通り過ぎる夜風の気配。そのすべてが、私にとってかけがえのない対話の時間になっている。

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