
五月の夕暮れは、なんとなく長い。窓の外がまだ薄紫に染まっているのに、もう夜の気配がそこまで来ている。そんな中途半端な時間に、ふと「今日はノーメイクデーにしよう」と思い立ったのは、つい先日のこと。洗面台の鏡を見て、すっぴんの自分に「まあ、悪くないか」と小さく呟いた。心のどこかがほんのすこし、軽くなった気がした。
美容の世界では今、
バスタイムを「ながら美容」から「癒しとリセットの時間」へアップデートする流れ
が来ている。
バスタイムを「ただ洗う時間」ではなく、美容・リラックス・自分をいたわる「有意義な時間」と捉え、そのための投資に価値があると感じる人が全体の80.6%
にのぼるという。数字を聞いて驚いたけれど、確かに、と思う。毎晩の入浴時間が、ただ汚れを落とす行為ではなくなってきている。
湯船にお湯を張るとき、私はいつも「ゆあみ草」というハーブ系の入浴剤を一袋入れる。架空の名前ではなく、ずっと前に地方の道の駅で偶然見つけた小さなブランドのもので、ラベンダーとよもぎが混ざったような香りが特徴だ。湯気とともにその香りが浴室に広がる瞬間、肩の力がすっと抜ける。これが好きで、もう三年以上続けている。
適切な条件のお風呂に入るだけで、交感神経から副交感神経への切り替えが行われ、自律神経のバランスを整えることができる
と専門家は言う。
お風呂に入ることで自律神経の副交感神経が優位になって血流も良くなり、体がリラックスして眠りを誘うようになる
のだそうだ。忙しい日々の中で、交感神経ばかりが酷使されている。ストレスが積み重なると、夜になっても頭が冴えて眠れない、あの感覚。お風呂はその糸口になる。
38℃程度のぬるめの湯に入ると、副交感神経が刺激され、オフモードになりやすい
とされている。熱すぎるお湯は逆に交感神経を刺激してしまうから、夜の入浴は「ぬるめ、ゆっくり」が鉄則だ。
40℃の湯船に15分、首までつかる完全浴
が睡眠の質を高めるという。15分、長いようで短い。スマホを置いて、ただ湯に浸かる。その静けさが、一日の終わりにとても似合う。
ノーメイクデーに入浴時間をゆっくりとると、肌がやわらかく感じる。毛穴が開いて、体の芯から温まって、なんとなく素顔のままでいることが心地よくなる。これがぬくもりアイテムの本質なのかもしれない。高価なスキンケアも、もちろん大切。でも、毎晩の湯船こそが、最もシンプルで、最も続けやすいぬくもりアイテムなのだと思う。
子どもの頃、祖母の家のお風呂は五右衛門風呂だった。木のふたを踏みながら入って、底からじわじわと熱が伝わってくる感覚。怖くて最初は泣いたくせに、慣れたら毎晩「もっと入る」とごねていた。あの頃から、体を温めることの気持ちよさは知っていたのだ。
良質な睡眠の鍵を握るのは入眠時であり、副交感神経を高めるためにおすすめなのが入眠前の入浴
だ。眠りの質が上がれば、翌朝の肌ツヤが違う。顔色が明るくなる。若々しさというのは、特別なことではなく、毎晩の積み重ねの上に静かに宿るものだと感じる。
今夜も、お湯を張ろう。香りを選んで、照明を少し落として、ゆっくりと湯船に沈む。それだけでいい。ノーメイクデーの素顔で、入浴時間という小さな旅に出る。体の芯が温まって、ぬくもりアイテムに包まれて、やがて自然と眠くなる。そういう夜を、丁寧に重ねていきたい。






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