
秋の夜、窓の外からかすかに金木犀の香りが流れてくる。そういう夜に限って、なぜかお風呂に入るのが億劫になる。仕事の疲れがどっしりと肩にのっていて、湯船にお湯を張る音すら遠く聞こえる気がした。でも、そこで「まあいいか」とシャワーだけで済ませてしまうと、翌朝の目覚めが全然違う。それをくり返すうちに、わたしは少しずつ、入浴時間の意味を真剣に考えるようになった。
疲労には自律神経が大きく関わっていて、リラックスした状態をつくるためには副交感神経を優位にする必要がある。その方法として、入浴は非常に理にかなっている。
湯船に浸かった瞬間、全身がふわっとゆるむあの感覚は、気のせいでも贅沢でもない。体が、ちゃんと「休んでいい」というサインを受け取っているのだ。
38〜40℃のぬるめのお湯にゆっくりつかることで、リラックス効果をつかさどる副交感神経が優位になり、興奮状態がオフになる。
だから熱いお湯が好きな人には少し物足りないかもしれないけれど、夜の入浴時間はあえてぬるめに設定することをおすすめしたい。試してみると、湯気の立ち方もどこかやさしく見えてくる。
子どものころ、母がよく「お風呂は宝物の時間よ」と言っていた。当時はピンとこなかったけれど、今になってその言葉の重さがわかる。あのころは5分も浸からずに飛び出していたのに、今は15分が短く感じる。人は変わるものだ、とちょっと笑えてくる。
そして、入浴時間が変えるのは気分だけではない。
入浴は就寝の1.5〜2時間前に行うのが最適とされていて、入浴後に体温が自然に低下することで、自然な眠気が促進される。
良質な睡眠は、肌の再生にも、ホルモンバランスにも、翌日のエネルギーにも直結している。美しくいたいなら、夜のお風呂は何よりのぬくもりアイテムになりうる。
最近、「ノーメイクデー」を週に一度つくるようにした。素肌のままで過ごす日は、肌の声を聞きやすい。毛穴の状態、乾燥している部分、なんとなくくすんでいる場所。そういうものに気づけるのは、ノーメイクデーならではの発見だ。そしてその日の夜こそ、入浴時間を丁寧に過ごしたくなる。ラベンダーとヒノキをブレンドしたバスオイル「ソワレ・ド・バン」をお湯に数滴垂らして、湯気とともに香りが広がるのをただ感じる。目を閉じると、肩の力がするりと抜けていく。
ただ、先日ちょっとした失敗をした。ぬくもりアイテムとして愛用している湯たんぽを、お風呂上がりにベッドへ運ぼうとして、タオルに引っかかって盛大に転びそうになった。湯たんぽは無事。わたしのプライドだけが少し傷ついた夜だった。
入浴の睡眠への効果は加温効果にある。入眠前に体温を一時的に上げることで、その後体温が低下するときに自然と眠気が誘われ、快眠が得られやすくなる。
眠れない夜、焦って布団の中でスマホを見続けるより、まずお風呂に入ってみてほしい。それだけで、世界が少し柔らかくなる。
入浴時間は、自分を整える時間だ。ノーメイクデーと組み合わせて、ぬくもりアイテムに囲まれた夜をつくる。その小さな習慣が、自律神経のバランスを守り、ストレスを流し、睡眠の質を底上げしていく。美しさとは、外側だけでなく、こういう夜の積み重ねからにじみ出てくるものだと、今のわたしは思っている。






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