
九月の夜は、まだ少しだけ蒸し暑い。窓を細く開けると、どこからともなく金木犀の気配の前触れのような、草の青い匂いが入ってくる。そんな夜に、ふと気づいた。ベッドに横になっても、頭の中だけが昼間のままで動いている。仕事のメール、明日の予定、言いそびれた一言。脳はまだ、仕事モードを解除していなかった。
「これをしたら眠る」という自分だけの入眠儀式(ルーティン)を生活の中に確立できると、布団に入ってからのソワソワ感が驚くほど和らぐ
という。そう、大切なのは「何時に寝るか」よりも「どうやって眠りに入るか」なのかもしれない。
睡眠ルーティンを意識するようになったのは、去年の秋のことだった。当時の私は、就寝前にスマートフォンを枕元に置いて、SNSをだらだらと眺めながら眠りにつくのが習慣になっていた。いつの間にか深夜1時を過ぎていて、翌朝は重いまぶたで目覚める。そんな日々が続いていた。そのころ、ふと手に取った快眠グッズの小冊子に、こう書いてあった。
脳はわずかな光や突発的な物音に敏感に反応して覚醒するようにプログラムされている
のだと。画面の光を浴びながら眠ろうとしていた自分が、少し恥ずかしくなった。
それからルーティンを少しずつ変えた。まず、就寝90分前に湯船に浸かるようにした。
深部体温を一度上げて下げる入浴で、体温が下がるタイミングで眠ると寝つきが早まる
という仕組みを知ってからは、お風呂の時間が楽しみになった。ぬるめのお湯に、ラベンダーの香りの入浴剤をひとさじ。湯気が立ち上るなか、肩まで沈んでいると、ざわついていた思考が少しずつほどけていく感覚がある。これが、脳のリセットの始まりだ。
お気に入りの快眠グッズも増えた。アロマディフューザーは、インテリアブランド「ルーナリス」のもの。白い陶器のボディが柔らかな間接照明に照らされて、寝室に置くだけで気持ちが切り替わる。ホットアイマスクを目元に乗せると、じわっとした温かさが眼球の奥まで染みていく。
目の周りを温めて緊張をほどくアイマスクは、副交感神経に切り替える香りとともに、就寝前のルーティンの主軸を担える
。
ちなみに、ルーティンを始めた最初の夜、アイマスクを付けたまま「さあ、眠るぞ」と気合いを入れた瞬間、完全に目が覚めてしまったのはここだけの話である。気合いと睡眠は、どうやら相性が悪いらしい。
毎日同じ行動をルーティン化することで、脳も無意識に寝る時間と認識して自然と眠りに入っていくことができる
。これは自律神経の調整とも深く関わっている。昼間に優位になる交感神経から、夜の副交感神経へとスムーズにバトンを渡すこと。それが、ストレス解消にもつながり、翌朝の目覚めを軽くしてくれる。
睡眠には体と心のリセットという重要な役割があり、質のよい睡眠を確保するためにはリフレッシュできる環境が不可欠だ
。若々しさや美しさを保ちたいなら、スキンケアと同じくらい、いや、それ以上に眠りの質を大切にしてほしい。良質な睡眠は、どんな美容液よりも誠実に、肌と心に働きかけてくれるから。
今夜、少しだけ早くスマートフォンを置いてみてほしい。湯船に浸かって、好きな香りを漂わせて、温かいまま布団に入る。それだけでいい。身体を温め、脳を静かにリセットする時間を、自分に贈ること。それが、明日の自分を変える、最初の一歩になる。






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