
寝る前の10分間が、こんなにも大切だとは思っていなかった。
仕事終わりの夜、部屋に帰るとどっと疲れが押し寄せてくる。でも不思議と眠れない。スマホをぼんやり眺めながら、気づけば深夜になっている——そんな夜が続いていた。
転機になったのは、近所の小さなセルフケアスタジオ「ソレイユ・ムーン」で体験した、夜のルーティンプログラムだった。インストラクターの女性が最初に言ったのは、「眠れない夜は、身体が冷えているサインかもしれません」という一言。その言葉が、妙に刺さった。
確かに、足先がいつも冷たい。夏でも靴下を手放せない自分のことを、なぜかその瞬間まで「体質だから」と諦めていた。
プログラムで最初に取り組んだのは、ゆる筋トレだった。激しい運動ではなく、仰向けになって膝を胸に引き寄せるような、ほんとうに優しい動き。それだけで、腰の奥がじんわりと温かくなっていくのがわかる。次第に呼吸が深くなって、肩の力が抜けていった。子どもの頃、母親に背中をさすってもらった夜のことを、ふと思い出した。あのときの安心感に、少し似ていた。
続いてストレッチ。太ももの裏側をゆっくり伸ばしながら、インストラクターの「吐く息を長くして」という声に合わせて深呼吸を繰り返す。ラベンダーとヒノキを混ぜたような香りがほんのり漂っていて、それだけで眠気が誘われるような心地よさだった。
深呼吸というのは、やってみると意外と難しい。「ちゃんと吸えている」と思っていたのに、実際は胸しか動いていなかった。お腹を膨らませるように吸って、ゆっくり吐く。その繰り返しの中で、自律神経が少しずつ整っていくような感覚があった。頭の中でぐるぐる回っていた「明日の会議」「返していないメッセージ」が、するっと遠のいていく。
ちなみに、その日の帰り道、リラックスしすぎたのか財布をスタジオに忘れてきた。取りに戻ったとき、インストラクターが「よく眠れる証拠ですよ」と笑ってくれたのが、なんだか嬉しかった。
それから、寝る前のルーティンを自宅でも続けるようにした。ヨガマットを敷いて、照明を少し落として、10分だけ。ストレッチと深呼吸だけのシンプルな時間。身体を温めることを意識するようになってから、布団に入ったときの感覚が変わった。以前は天井をじっと見ていた時間が、今は自然と目が閉じていく。
睡眠の質が変わると、翌朝の目覚めも違う。身体が重くない。頭がすっきりしている。それだけで、一日の始まりが少し明るくなる。
激しく頑張らなくていい。ただ、夜の静かな時間に、自分の身体と向き合う10分を持つだけで、何かが変わりはじめる。そのことを、今は確かに感じている。






この記事へのコメントはありません。