
秋が深まるころ、日が落ちるのが急に早くなった気がして、夕方5時にはもう窓の外が藍色に染まっている。そんな夜に、わたしはお風呂の蛇口をひねる。ただそれだけのことなのに、湯が浴槽を満たしていく音を聞くだけで、肩のあたりがすこし、ふっとゆるんでいく。
バスタイムを「ただ洗う時間」ではなく、美容・リラックス・自分をいたわる「有意義な時間」と捉える動きが広がっており、そのための時間やアイテムへの投資に価値があると感じる人は全体の80.6%にのぼる
という。時代が追いついてきた、とでも言うべきか。ずっとそうだったのに、ようやく言語化されたような感覚だ。
わたしが入浴時間にこだわるようになったのは、子どもの頃の記憶がきっかけかもしれない。祖母の家には古い五右衛門風呂があって、木のふたを踏んで沈めながら入るあの儀式が、妙に好きだった。熱くて、ちょっと怖くて、でもじんわりとあたたかくて。あの感覚が、今でも湯船の底にある。
湯船に浸かりながら、最近はじめたのが「ノーメイクデー」という習慣だ。週に一度か二度、肌に何も乗せない日をつくって、素顔のまま湯気の中に座る。最初は少し落ち着かなかった。거울を見るたびに「なんか顔が小さくなった気がする」と思って、よく考えたら眉を描いていないだけだった──というのは、ちょっとした笑い話だ。でも、慣れてくると肌が呼吸しているような感じがして、翌朝の素肌がなんとなく柔らかい。
入浴剤の人気が高まり、バスタイムを美容や癒しの「有意義な時間」と捉える人が増加している
なか、わたしが最近お気に入りにしているのは「ユズノワ・バスリチュアル」という架空のブランドの柚子と生姜を合わせた入浴剤。お湯に溶かすと、浴室全体にほんのり甘い柑橘の香りが広がって、鼻の奥からじんわりとほどけていく感覚がある。香りというのは不思議で、嗅いだ瞬間に体の構えが変わる。
副交感神経を優位にし、身体を休めるためには、全身浴で1分入浴した後、半身浴でゆっくりストレッチや瞑想を取り入れる入浴方法がおすすめ
とされている。難しく考えなくていい。ただ、肩まで沈んで、目を閉じて、湯気を吸い込む。それだけで、自律神経はちゃんと応えてくれる。交感神経が張り詰めていた一日の末に、副交感神経がそっと主役を交代する。その切り替えが、眠りの質を大きく左右する。
お風呂に入ることで自律神経の副交感神経が優位になって血流も良くなり、体がリラックスして眠りを誘うようになる
。深部体温が上がり、その後ゆっくりと下がっていく過程で、人は自然に眠くなる。だから、寝る1〜2時間前の入浴時間がいちばんいい。
お風呂上がりには、ぬくもりアイテムの出番だ。今のお気に入りは、オーガニックコットンのルームソックスと、腹巻き。靴下を履いた瞬間の、あのふわっとした感触がたまらない。体の熱を逃がさず、じんわりと保温してくれる。若い頃は「腹巻きなんて」と思っていたのに、今ではこれなしでは眠れない。体幹が温かいと、眠りの深さが全然違う。
ライフスタイルや気分に合わせて無理なく選択できる「ご自愛入浴」が、新たなセルフケアの形として定着しつつある
。特別なことは何もしなくていい。入浴時間を丁寧に使うこと、ノーメイクデーで肌を素直に休ませること、ぬくもりアイテムで体の熱をやさしく守ること。その積み重ねが、翌朝の顔つきを、そして眠りの深さを、少しずつ変えていく。
藍色の夜に、湯気がゆらゆらと立ちのぼる。それだけで、今日はもう十分だと思える。






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